作品とエネルギー量について

位置エネルギーみたいなエントロピー的な、熱量、仕事量、つまりはカロリーを、あらゆるものは持っています。
簡単に言うと、手間をかければかけるほどそのエネルギーの蓄積は大きくなります。
ようするに、たまごかけご飯より、オムライスの方が仕事量が高い。
それは作品においても同様です。


純化すれば、作品の善し悪しは心をどのくらい動かされたかで決まります。
物を動かすにはエネルギーが要ります。
作品の持つ位置エネルギーが高ければ、それだけ心を動かす可能性を持っていると言えます。


わかりやすい例を挙げてみます。


2メートル×3メートルの作品が二つ並んでいます。
ある風景を写したもののようですが、ぱっと見まったく同じものに見えます。


でも近づいてよく見ると、ひとつは写真、もうひとつは油絵です。
つまりは、写真と見まごうほどの繊細な油絵。


この場合、写真と油絵とで、どちらがより心を動かすでしょうか?
おそらく油絵でしょう。


それは油絵の方がエネルギーが高いからです。
写真は、パシャリと撮影したら、データを業者に渡してプリントしてもらったものでしょう。
油絵は、おそらく何度も修正を繰り返しながら、何ヶ月もかかって完成したものでしょう。


制作に込められた熱量が違うんです。


作品というより、その物体の持つエネルギーは、作家のみならず制作にかかわったすべての熱量が関係します。
そう考えると、インクジェットプリントよりも銀塩プリントの方がなんかいい気がするのも理解できます。


写真は複製物であるから芸術作品ではないという議論もありました。
それもこのエネルギーを考えるとよくわかります。
複製であるから、同じものがたくさんあるからダメということではないと考えます。


100円ショップで売られるような大量生産された湯飲み。
これは当然、エネルギー、コストがかけられていません。
同じものが大量にあるからではなく、ひとつで考えてもエネルギーが低いんです。
(もちろん大量につくるからコストが下がっているわけですが。)


写真作品においては、流通量を抑えることで作品の価値を高める方法があります。
シリアルナンバー付きのオリジナルプリントというやつです。


これも、数が少ないからいいというわけでは無いですよね。
大量生産された湯飲みを、10個残して全部割ったとしても、その10個の持つエネルギーは変わりません。
(プレミアという値打ちは変わるかもしれませんが。)


作品も、制作量を抑えることで、ひとつにより多く手間をかけられるというわけです。



この作品のもつエネルギーは、当然受け手が感じる物であって
受け手によって感じるエネルギー量も変わってきます。


数ヶ月かけて描いた油絵も、遠くから見てポスターだと思ってる人には
ポスター分のエネルギーしかありません。


つまりは、どのくらいのエネルギーを持つのかが、見る人に伝わるのか、
伝える工夫があるのかも影響するというわけです。


映画とかの宣伝でよくありますよね。
「構想15年。」とか、「制作費用50億円。」とか。



作品にいかにエネルギーを込めるか。
エネルギーがこもっていることをいかに感じさせるか。


ということを念頭において作品をつくるのも大事なんじゃないかというお話でした。